秒読み


本番まで1週間前となった。

昂ってくる気持ちを抑えるのは容易では無い。
緊張・好奇・不安・楽しみ、様々な感情が綯い交ぜになっている。

しかし、ここで避けられないイベントがある。

PCR検査である。

23日、芝居を観にわざわざ神楽坂まで足を運んでくださるお客さんが多数いらっしゃる。
その方々へのコロナウイルス感染防止対策は徹底的に行わなければならない。
ぼく自身がコロナに罹患しているかどうかのチェックは最低限のエチケットでありルールだ。

ぼくは早速PCR検査キットを取り寄せた。


1.5日で届いた


物流業界の最近の進化は著しく、ネットで発注してすぐに手元に届いた。

実家から「美味しい干し柿できたから送るね」と言われ1年待っても届かなかったあの頃とは天地の差である。

検査の仕方が書かれた説明書を斜め読み。
どうやら唾液を専用の液で希釈して数分待機するという、非常にシンプルな流れであるようだ。
ぼくのような頭の弱い人間にも検査できるようにと、きっと担当の係の方が何度も何度も企画会議を重ねてくださったのであろう。その努力を想うと、胸に熱くこみ上げるものがあった。

ぼくは濡れた目頭をハンカチで抑え、検査キットを手に取る。
しかし、そこから数分。ぼくは動く事ができなかった。

感動に打ちひしがれていたからでは無い。
そう、ぼくはビビっていたのだ。
「もしも陽性だったら・・・!!」
その考えが頭をよぎったのだ。
陽性だった場合は間違いなく本番は中止。
お世話になっていた人たちにまずは連絡しなければならない。きっと落胆する事だろう。
本番が無いのであれば予算の消化もできない。
何よりも一番心苦しいのは、楽しみにしていたお客さんたちを失望させてしまう事だ。

本当に検査をする必要があるだろうか。
適当にやったフリをして、スタッフたちには「陰性だった」と伝えればいいのではないか。
だれも見てないのに、検査するリスクがどこにあるだろうか。
それらすべてが正論に聞こえた。

そんな悪魔の声に耳を貸す事なく、ぼくは思い切って検査キットに手を伸ばした。結果が出る前からビビってどうする!案ずるより生むが易し!!!
ぼくはこのテンションと勢いに任せて検査を受けることにした!
唾液を出す。出す。とにかく出す。出し続ける。マーライオンぐらい出した。
説明書には「その唾液をスポイトで3滴取ります」と記載があった。
ぼくは憤怒した。この余った唾液はどうするんだと怒りに震えた。メロスぐらい激怒した。

その怒りとは裏腹に、結果はすぐに出た。

陰性だった。

ぼくは安堵した。緊張が緩み、涙が出た。
セリヌンティウスぐらい泣いた。

お越しのみなさん、是非安心して足をお運びください。
陰性のぼくがお待ちしております。

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