before
昔も今も日本のインプロは3〜5分間程度の短い芝居が主流である。時にゲームを交えながらお客様にお届けする。
ぼくが数年前まで所属していたチームも例に漏れずその形式で行っていた。
毎月1度の頻度でライブを行っていたものの、ぼくは次第にお客さんを呼ばなくなった。
誘えなくなったのだ。
「ぼくが今やっている表現は本当に面白いんだろうか。誰かを本気で楽しませられているのだろうか」という疑問が自分自身のなかに浮かんだからである。
ぼくは卒業という形でその団体を抜ける事にした。
卒業したものの、
「お客さんと2人で長尺の即興できたら楽しいんだろうな〜」
と漠然と思いながらも、ビビリのあまり一歩を踏み出せずにいるような中途半端な生活が続いていた。
そんなある日、(何を見ようとしたかは忘れたが)映画館に行くと、本編前にロレックスのCMが流れスクリーンからこの言葉が投げかけられた。
「行動するのです。あなた以外に誰ができる?」
ぼくはその言葉を素早くメモに書き取った。
「ロレックスがどこかでぼくを見ているのか…?」
そう勘違いしてしまうには充分すぎるほどのタイミングと言葉であった。
after
そして1年間の準備期間を経て、昨日の本番を迎えた。
自分自身の感触もさることながら、お客さんや仲間の意見を聞いても「やってよかった」と確信するばかりである。
公演が終わって丸一日が経過した今、お客さんから感想が続々と届く。
すべてがありがたい感想であるが、締め括りの言葉はどれも似たり寄ったりだ。
大抵「次回も期待しています」という文言。
ぼくはこれを社交辞令と捉えない。
本当に楽しみにしてくれているのだと感じる。
だってこんなに面白く興味深い事をやっているのだから。
ぼくが客席で観ていたとしても、「次回も見逃せない」と思うに違いない。
即興芝居の本番中に客席からすすり泣きが聞こえてきた事。
「2回目も見たい即興って初めて」だと言ってもらえた事。
すべてがありがたい事である。
この表現であれば多くの人を楽しませられる事を確信した。
これをブラッシュアップできる事、それを支えてくれる人がいる事、そしてそれを期待して待ってくれる人がいる事、これは幸せな事だ。