昔話
ぼくが高校生の頃である。
地元の区民ホールで、業界ではやや有名らしい50歳前後の女優が熊本で一人芝居を上演するという事で手伝わせてもらう事になった。
俳優を目指していたぼくにとって、プロの女優から何かを吸収できる機会はモチベーション最高潮であった。
具体的なヘルプ内容としては、作品のクライマックス時、ドライアイスをコントロールして舞台上にいい感じの煙を送り込むことだ。
幻想的な雰囲気を演出するために必要不可欠なドライアイス。
公演数が重なる度にその女優に魅了されていき、「もしこのドライアイス失敗したら作品のクォリティを根幹から揺るがす事になるな…」と自ら過剰に責任感を背負うきらいはあったものの、この素晴らしい作品に携われているという事に誇りを持っていた。
舞台監督のような人からのお誘い
千秋楽を迎えた。
「この後に打ち上げを予定しているけど来るかい?」と舞台監督のような方からお誘いを受けた。
ぼくはこの女優を尊敬しながらも千秋楽まで一言も言葉を交わしていなかった。
打ち上げの席であれば言葉を交わす機会がきっと来る。
多くなくていい。2〜3言、交わせればそれでいい。
ただ一言「あなたの作品に感動した」と伝えたい。
ぼくは舞台監督のような方に「是非とも参加させていただきたい」と伝えた。
結論から言うと打ち上げには参加しない方がよかった事になるのだが。
(つづく)