前回からの続き


打ち上げの席でぼくは一番の下座に陣取った。
高校生らしい謙虚な振る舞いだ。

ドリンクが全員の手に行き渡り乾杯が行われた。

舞台監督が
「じゃあ一人ずつ今回の公演の感想を言っていきましょうか。じゃあまず長澤くんから」
と振ってくれた。

数日間の公演でぼくは主演女優と一言も交わした事がない。
にもかかわらず、舞台上で演技をする彼女を見続けていたぼくには伝えたい事があった。
尊敬しています、の一言を絶対に言おうと思っていた。

立ち上がり、まさにその一言を伝えようとした矢先、
その主演女優から
「さっさとやってね」との言葉が飛んできた。
高校生の言葉なんか特に求めていないといった空気感が彼女の身体全体から醸し出されていた。

その時ぼくは激しく後悔した。

どうしてこんな女にドライアイスをたいてしまったのだろう。
舞台を少しでも良くする事に全力をかけてしまったのだろう。

言おうとしていた言葉を奥に追いやり、無難な言葉を伝えてさっさと着座した。

尊敬している人が必ずしも自分を大切に扱ってくれるわけではない。
自分が好意を持っていても相手がそうであるかはわからない。
そういった事を学んだ。

帰りの自転車は全力で漕いだ。

 


自分はどうだ


今回の『why me?』では、初めて力を貸してくれるスタッフが数人いる。
自分のために力を貸してくれるのだ。
丁重に接するべきだ。

かといって従来のスタッフ陣を蔑ろにしてもいけない。
冗談を言い合える関係であっても感謝と敬意を忘れては絶対にいけない。

というような事を思い知らされる出来事が1ヶ月ほど前にあった。
久しぶりに雑に扱われた事で、すっかり忘れていた過去を思い出した。
雑に扱われるこちらにも非があったのだろう。
だがぼくは同じ想いを、自分と接する人ましてや自分の力になってくれる人には絶対に味わわせたくない。
と強く感じた出来事であった。

たまに「長澤は雑に扱ってもいいだろ」という感じで接してくる人がいるが、ぼくは心の中でしっかりと軽蔑し、二度と一緒に仕事してやるもんかと自分の心の中だけで解決しているとても暗い男である。

 

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