こちらの提案を無視すな


友人が結婚するというので明治記念館へ行ってきた。

この結婚式には、出席する前からすでに個人的な思い入れが深いものとなっていた。
というのも彼らの式は新型コロナウイルスの影響で4度にわたり延期をしていたのである。
新型コロナウイルスさえ無ければ2年前に行われていた式だ。

「出席するから送らなくていい」と伝えていた招待状は毎回律儀に送られてきた。
「何人呼ぶかはしらないが1回の招待で郵送費やらなんやらで5万円とぶと仮定して、毎回送ったらそれだけで20万円がかかっているじゃあないか…」
決して少なくないそのお金を、
ぼくたちに招待状を送る事に費やした彼の想いに心打たれた。

ぼくは覚悟した。
「こちらの意向を無視してそれほどまでに招待状を送ってくる彼の心意気に応えよう。何があっても必ず出席しよう」と。

そしてそれが先日ついに叶ったのである。

 


“長” のつく役職についている人はすごい


当日、天候にも恵まれ4月にしてはやや暑く背中は汗ばんでいた。

我々友人枠には高砂からなかなかの近さの席を用意してくれており、
新郎新婦の表情はもちろん、その気になれば毛穴さえも見えそうなほどであった。

美味しい食事や久しぶりに会う友人との会話、
途中で挟まれる余興のクイズなどもあり
式は終始和やかに進んでいく。

「このままいけば久しぶりに酔っ払いそうだなぁウフフ」
そんな事を考えていた矢先、
新郎新婦の馴れ初め動画がスクリーンに映し出された。

新郎紹介のところで
「今では◯◯店の店長として頑張っています」との情報が映し出されたその瞬間、
同じテーブルに座っている我々はお互いに目を見合わせた。

「店長…?」

そのテーブルに座っていた4名誰しもが、彼が店長になった事など知らなかったのである。
いつ店長になったんだろう…
なぜ教えてくれなかったんだろう…
本当にぼくらは彼の友人と言えるのかな…
もし彼がE.T.ならぼくをエリオットと認めてくれるかな…

店長になった事を共有してもらえていたなかったという事実が、
ほろ酔いだったぼくの目を覚まし、代わりに卑屈な想いを芽生えさせた。

「そうか、店長なら招待状の郵送代20万も経費で落とせるのか。そりゃあ余裕だよな」
「へーマイホームも買ったんだ。ボーナスとかさぞかしたんまりもらってんだろうねぇ」
「奥さんめちゃめちゃ美人だけど整形とかしてんだろうどうせ」

しかしここは祝いの席だ。
卑屈さは微塵も顔に出してはならない。

すべての想いをシャンパンと共にグッと飲み干し、
ぼくは静かに彼への復讐を誓った。
「おれも秘密を持ってやる。そしてそれを間接的に知らせる事で疎外感を味わわせてやる」

ぼくが内閣総理大臣を目指すようになったのはその日からである。

そしてそうなった場合でも彼にだけは間接的に知られるまでは絶対に教えないと固く誓った。

 


当日劇場にお越しいただいたお客様と2人で行なう即興芝居
『why me?』vol.2まで
あと16日!!

詳細はこちらから

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