ハングル
韓国語の習得を独学で行なっている。
「英語と比べると韓国語は覚えやすい」
「日本語と似てて簡単簡単」
と多くの人が言う。
ふーんそんなもんかと安直に考えていた過去の自分を叱り飛ばしたい。
それなりに難しいではないか。
そもそも言語の習得に必要な能力がぼくは不足しているようで、たった1ページ進むのにも多くの時間を費やしている。
先は長そうだ。
聖地・新大久保
「言語の習得は、その言語を持つ恋人を持つのが手っ取り早い」
と聞いたことがある。
都内で韓国と言えばそれはもう新大久保を指す。
新大久保の町やお店は韓国の人や文化で溢れている。
バーにでも行けばそこは言語習得の機会に恵まれる事間違いなし。
新大久保で恋人を探せばいいのかもしれない。
しかしぼくは新大久保に行く事ができない。
ぼくは昔、新大久保のバイトをバックれた事があるのだ。
バックれ
ぼくがバイトとして雇ってもらったその焼肉屋は、若い女性の経営者が切り盛りしていた。親の代から続く焼肉屋らしく、店長はその娘さんだという。
クールビューティーという言葉がしっくりくる切れ長の目。
毛穴の存在しない陶器のような肌。
そして年上のスタッフにも物怖じせずにテキパキ指示を出す様。
ぼくはこの店長から「決してこの店を私の代で絶やさない」という強い心意気を感じ、好感を抱いていた。
問題が起きたのはバイト入社後、1ヶ月ほど経ってからだ。
舞台の稽古か何かもう詳しい事は忘れてしまったが、
2〜3週間ほどバイトに出られない日が続いた。
面接では「週に3日はコンスタントに出られます!へへ!」と調子の良い事を言っていたにも関わらずである。
その長期休暇明け、初のバイトである。
どこか店長の様子がよそよそしい。
なんとなく無視されてるような素振りだ。
店長だけではない。
他のスタッフと話しても距離を感じる。
「まぁ長い間休んでたもんな。仕方ないよな」
と自分に言い聞かせバイトを続けるも
なかなかしっくりコミュニケーションが取れない。
コミュニケーションが取れないから仕事の連携が取れない。
そもそもぼくも仕事内容をよく覚えていない。
という負の連鎖がその日は続いた。
ぼくはなんとなく気づいた。
「これ、皆がぼくをシカトしようとしてるのでは?」
そう考えるとこの日の違和感すべてに辻褄が合った。
ぼくはラストオーダーの時間まで働いた後、タイムカードも押さずに店を去った。バックれたのだ。
それから10年以上経つだろうか。
ぼくはいまだに新大久保では降りられない。
店長の顔は覚えていないが、なんとなく降りられない。
今、Googleマップでそのお店を確認したらアイドルショップになっていた。
それでもやはり新大久保で降りるのはまだ怖いのだ。