出会い
それは今年4月15日の出来事であった。
この日は『why me?』vol.5の本番。
本番を終え観劇してくださったお客様も全員去り、さていよいよスタッフ達と打ち上げに参ろうかというそのタイミングだった。
「ひでとも君!」
と呼びかけられた。
ぼくをこの呼び方で呼ぶのは限られる。
15年前に付き合った彼女か、スタッフのマナティのみだ。
声が女性のものではない時点で、そのどちらでもない事に気づくべきであった。
「ひでとも君! 久しぶりだね!」
そこにいたのは大学時代の先輩Yさんであった。
10年以上ぶりの再会を果たしたY先輩。
なんとこの施設で働いているのだと言う。
Y先輩「ひでとも君、お客さんと2人で即興芝居やったんだって?すっごいねぇ。ぼくは見てないけどすっごいねぇ。あ、そうだ!今度よかったらこの施設でなんか企画をやってくれないかなぁ?いやぁそれにしても本当にすっごいねぇぼくは見てないけど」
長澤「き、企画!やりましょう!是非やりましょう!いつですか?いつやりますか?」
新しい仕事を目の前にぶら下げられる事で、たった今上演した本番を見てくれていない事などどうでもよくなってしまう弱い男なのだ私は。
こうして生まれた月島小劇団
かくして、月島社会教育会館とタッグを組んで何かしらの企画をやらせていただける事になった。
Y先輩と数回のミーティングを重ねる。
月島社会教育会館ではさまざまな催し物が定期的にされているらしい。
ヨガや俳句など、知的好奇心を刺激されるような教室が多い中、長澤には何ができるのかを模索する。侃侃諤諤。
下記の2つに絞られた。
—
◯ナレーター・ボイストレーナーとしてのぼくの経験を活かす「話し方教室。
◯ぼくの軸である「即興芝居教室」
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どちらも地味である。
ベリーダンスの一つでも習っておけば華やかな講習を提供できたのに。腰を振らずに今日まで生き抜いてきたことが悔やまれてならない。
Y先輩とさらに協議を重ねた結果、
「即興芝居教室」を実施する事となった。
Y先輩は2時間の1コマ枠を確保してくれた。
「2時間で即興芝居のワークショップか。時間足りるかな」
と不安なまま、本番の日に近づいていく。
そして本番2日前。
ぼくは大変な事に気づいた。
会館側が用意してくれた広報用のチラシ。
このチラシに一言も「即興」の文言が無いのだ。
このチラシをみて応募を申し込む人は即興芝居をやらされるなんて思っていないはずだ。
参加者のニーズに応えられない可能性があるかもしれない…
ぼくは本番までの残り2日間を脂汗をかきつづける事になった。
つづく