今から話すのはすでに時効の話だ


それは、とある日の夕方に起きた。

その日は朝から予定が続いていた事もあって、15時になる頃にはかなりの疲労がたまっていた。しかしこの後も予定はまだ2点残されていた。

 

1点目の予定は映画鑑賞である。
お目当ての作品の映画館上映はこの日が最終日であった。
どうしても気になる作品なのだ。見逃すことはできない。

 

2点目の予定は友人Kとの打ち合わせである。
まぁ打ち合わせとは名ばかりの飲み会だ。
ドタキャンはできなくもないが、Kの機嫌を著しく損なう事は覚悟しなくてはならない。
そのリカバリーに時間を取られるくらいなら今日会っておいた方が得策だろう。

 

しかし、もつか? 体力よ。

 

疲労でうまく働かない頭でぼくは考えた。

「これは早急に体力を回復させる必要がある。」

がしかし、ネカフェで睡眠を取る時間は無い。
ならばここは栄養ドリンクで1発ガツンと決めよう。

 

地下鉄のホームで電車を待っていたぼくは辺りを見回した。
自動販売機はすぐに見つかった。
最上段の右端に位置するは青く燦然と輝くレッドブルである。
210円。高いが背に腹は代えられまい。
いやむしろ、210円でこれから行われる2点の予定をクリアできるのなら安いものだ。

小銭を入れぼくはレッドブルのボタンを押す。
ガタン!と大きな音をたててレッドブルが落ちてきた。

ぼくが違和感を感じたのは、取り出し口に手を伸ばしレッドブルを取ろうとしたその時だ。レッドブルをうまく取り上げる事ができないのである。

取り出し口の中で、何かがレッドブルに引っかかっているというか、上から圧力をかけられていて、レッドブルを取り出す事ができないのである。

ぼくは今自分が手に持っているレッドブルの角度を少し変え、上から圧力をかけてくるものを見た。

するとそこには青い缶が見えた。

この缶、どこかで見たことがあるなんてもんじゃない。

まさに今ぼくが飲まんとするレッドブルなのだ。そう、ぼくが取り出し口から取り出そうとしたレッドブルが、べつのレッドブルによって圧力をかけられているのである。

 

 


増えるレッドブル


どうやらぼくが間違えてレッドブル2本分の小銭を入れ、レッドブルのボタンを2回押してしまったようだ。記憶にないのは疲れのせいなのだろう。

ぼくは仕方なく2本とも持ち帰る事に決めた。

1本目のレッドブルを取り出し口からなんとか拾い上げ、2本目のレッドブルに手を伸ばしたその時である。

 

上手く取れないのだ。

 

どうやらこれも上から圧力をかけられているようである。

恐る恐る取り出し口を覗いてみると、そこにはレッドブルの上にまたレッドブルが乗っているのである。

 

そう、3本目のレッドブルがそこにはいた。

 


おれがとても疲れた顔をしていたのかもしれない


ぼくが自販機に入れたのはお札ではなく小銭だ。

いくらぼくの頭のつくりが良くないとはいえ、自販機に入れたのが210円だったか630円だったかぐらいは覚えている。
ぼくが自販機に入れたのは小銭で210円。それ以上でもそれ以下でもないはずだ。
630円を自販機に入れることはきっとこれからも無い。

 

ぼくは不審に思いながらも2本目のレッドブルを取り出し、3本目のレッドブルを取り出そうとする。

が、また圧力が。

このやり取りがぼくと自販機の間で数回繰り返され、数分後、ぼくの手には10本のレッドブルが存在した。

理由を知る由もない。
とにかく自販機からは10本のレッドブルが出てきたのである。

ぼくは何が起きたかもわからず、ただただその10本のレッドブルをリュックに詰めた。

なんとかリュックに10本のレッドブルが入りきって安心した途端、ぼくはある事に気づいた。

 

「これは窃盗罪に当たるのではないだろうか・・・」

—(つづく)

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